2018年4月5日木曜日


「形のない宝もの」投稿募集中

鳥との出会い全てに自分だけの物語があるとしたら、それは形のない宝もの。このコーナーは、鳥に纏わる”とっておきの話”を紹介するコーナーです。
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軽井沢のクロツグミ


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2018年4月1日日曜日

軽井沢のクロツグミ 


 
横浜市鶴見区    黒田 清恵 

初夏の爽やかな空気の中、小瀬林道を下ってゆく。
行き交う人も稀な林道はエゾハルゼミの声に覆われ朗らかな夏鳥の囀りは心なしか遠い。
枝が重なる環境ゆえ、遠い声あての鳥影追いは敢えてせず。降り注ぐ雑多な声のシンフォニーを浴びながら、目の前に舞い飛ぶ蝶の姿を愛でながらゆっくりと歩く。

やがて林道を左に折れて野鳥の森に入る。探鳥の名所だけあり同好の士と思われる数名とすれ違った。大きな羊歯を左右に眺めながら斜面を登り、人気のない東屋に座ってお昼とする。

荷物を降ろしスコープを置く。駅のコンビニで買ってきたお茶とお結びを手にいまさっき登ってきた道を見るともなしに眺める。
視野に何かが動いた。まさかクロツグミ?
双眼鏡で見つつ図鑑を開いて確認する。間違いない。ミミズを咥えたクロツグミが目の前にいる。
お昼ご飯を投げ出して息をひそめて眺めているうちに、クロツグミはブッシュに入っては林道に出てを何度も繰り返し去ってしまった。嘴いっぱいに咥えたミミズを雛が待っているのだろう。

何年か越し何度か通ったこの時期のこの場所。降り注ぐ朗らかな囀りを聞きながらもその姿を確認できなかったクロツグミが、目の前にいる。さっき私が歩いてきた林道に。
こんな邂逅は考えてもみなかった。
小瀬林道を下るとき、いや軽井沢駅に着くまでの車内でもひとり探鳥の心細さを少なからず抱えていた。探鳥は自然相手の趣味なればこそ自由気ままな独行が大きな魅力である一方で、経験豊かな友なり指導者の同行が欲しいときも少なくはない。そんなジレンマが常にある。
今回のクロツグミとの出会いに関しては恐らく単独行が奏功した結果と思う。探鳥場所やポイントを指導してくれたベテラン諸氏、各種刊行物に感謝したい。

そしてこの手応えを伝えたい。